社会全体で母乳育児を支えよう

厚生労働省の調査によると、妊娠中は95%のお母さんが母乳育児を望んでいるにもかかわらず、生後1ヵ月での母乳率は45%に下がってしまいます。これはママの努力が足りないせい…ではなくて、日本の国としての取り組みが遅れているからなんです。

WHO・ユニセフは、「母乳育児成功のための10カ条」を実践し、母乳育児を推進している施設を「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」として認定しています。

スウェーデンの分娩施設のうちBFHはなんと100%! ノルウェーは81%、スイス54%、デンマーク39%。一方、日本はたったの61施設で、分娩施設全体のわずか3%です(2010年2月のデータ)。

ニュージーランドは、2005年はBFHが20%だったのですが、女性の厚生労働大臣が就任して、母乳育児を支援する政策を進めた結果、2008年は80%と認定施設がいっきに増えました。国の姿勢次第で、ここまで変わるものなんです。

また、WHOでは、「WHOコード」といって、ミルクなど母乳代用品のマーケティングに関する国際基準を定め、「宣伝をしてはいけない」「無料のサンプルを配ってはいけない」などと規制しています。

広告の影響力、人の心に商品のよさを植え付ける力は、とても大きい。本来、母乳だけで育児できる人に、ミルクを使わせてしまう可能性があるので規制しているのです。

日本もこの基準を1994年に批准しているのですが、産科医でこれを知っているのは20%以下。多くの病院で、退院時に粉ミルクのお土産パックを配っているというのが現状です。私たち医療者や、政府、自治体が一体となって、この問題に取り組んでいかなくてはならないですね。

母乳育児を社会が支えるためには、産後ママを1人きりにせず不安や悩みを解消する、育児休業や短時間勤務の制度を充実させる、ママの職場近くに保育所を確保するetc.――社会全体で、母性や子育てを守ることが必要です。

母乳育児をしやすい社会というのは、つまり、みんなが子育てしやすい社会につながるんです。

みんなが楽しく、安心して子育てができる環境を、これから社会全体で作っていきたいですね。

母乳育児成功のための10ヵ条

  1. 母乳育児についての基本方針を文書にし、関係するすべての保健医療スタッフに周知徹底しましょう
  2. この方針を実践する為に必要な技能を、すべての関係する保健医療スタッフにトレーニングしましょう
  3. 妊娠した女性すべてに母乳育児の利点とその方法に関する情報を提供しましょう
  4. 産後30分以内に母乳育児が開始できるよう、母親を援助しましょう
  5. 母親に母乳育児のやり方を教え、母と子が離れることが避けられない場合でも母乳分泌を維持できるような方法を教えましょう
  6. 医学的に必要でない限り、新生児には母乳以外の栄養や水分を与えないようにしましょう
  7. 母親と赤ちゃんが一緒にいられるように、終日、母子同室を実施しましょう
  8. 赤ちゃんが欲しがるときに欲しがるだけの授乳を勧めましょう
  9. 母乳で育てられている赤ちゃんに人工乳首やおしゃぶりを与えないようにしましょう
  10. 母乳育児を支援するグループ作りを後援し、産科施設の退院時に母親に紹介しましょう

(2010年8月から掲載)