母乳育児のQ&A
今までにママニティに寄せられた母乳育児の代表的な疑問&お悩みに、笠井先生にお答えいただきました。
Q1.風邪薬を飲んだときは授乳を中断したほうがいい?
Q.ママが飲んだ薬は、母乳にもごくわずかに出ていると聞きます。風邪薬程度でも、授乳を一時中断したほうがいいですか?
A.薬局で市販されている薬や、病院で処方される風邪薬などを飲んでも、ほとんどの場合、授乳を続けることができます。
産科や小児科以外の科の先生は、母乳のことをあまりよくわからないので、安易に「薬を出しますから、授乳はやめてください」と指示することが多いんです。
でも、アメリカの小児学会で授乳中に避けるべき薬としてあげているのは、抗がん剤や麻薬、放射性物質など、ごく限られた特殊なもので、ふつうはあまり使用しないものです。
たとえば、乳児に飲ませてはいけないといわれる解熱剤「ボルタレン」も、授乳中のお母さんが数回飲む程度なら、赤ちゃんに問題はありません。歯医者で麻酔をしたあとも、新型インフルエンザの予防接種をしたあとも、授乳は可能です。インフルエンザに使う「タミフル」や「リレンザ」も大丈夫。
ただ、インフルエンザのかかりはじめで症状が重い時期は、咳やくしゃみなどから赤ちゃんにうつしてしまう可能性があるので、直接接触しないほうがいいでしょう。インフルエンザの治療薬を飲みながら、搾乳したおっぱいを健康な人にあげてもらうといいですね。
「授乳中は市販の薬を勝手に飲んではいけない」とよく言われます。受診できるのなら、それがベストです。
けれども、小さな赤ちゃんを連れて病院を受診するのが困難で、つらい症状を我慢しているママも多いものです。そういう場合は市販薬を飲んで、少しでも症状を和らげたほうがいいと思います。
また、どうしても心配なら、薬の飲み方で工夫することもできます。薬の成分は、まずお母さんの血液に移行し、それから母乳に移行していきます。そのため、授乳直後に薬を飲めば、次の授乳まで時間があくので、母乳への薬の成分の移行が少なくなります。
母乳育児を続けるためには、毎日、吸わせること。2~3日でも吸わせないとおっぱいは出なくなってしまいます。薬を服用しているときは、授乳せずに搾乳してもいいですが、搾乳と赤ちゃんの吸い方はちがうので、搾乳ばかりが何日も続くと、おっぱいは出なくなります。そういう意味では、授乳を続けていくことが大事です。
授乳中に使える薬、使えない薬の一覧は、国立成育医療センターのホームページに詳しく掲載されています。
Q2.母乳を通じて環境ホルモンは赤ちゃんへ影響する?
Q.一時期、「母乳に環境ホルモンが含まれている」と話題になりましたが、赤ちゃんへの影響はどうなのでしょうか?
A.環境ホルモンは、微量母乳には移行します。でも、母乳の利点と環境ホルモンが混入することのマイナス面を比べたら、母乳のすばらしさのほうが勝ります。
環境ホルモンは、空気中や普段の食事のなかにも含まれていますし、ミルクでも、牛が環境ホルモンの影響を受けています。ですから、環境ホルモンによる影響が母乳をやめる理由にはなりません。
残念ながら、日々の暮らしのなかで、私たちの母乳だけではなくて、体全体に環境ホルモンが蓄積されていきます。今、必要なのは、母乳を避けることではなくて、環境中の汚染物質を減らすこと。
実際、スウェーデンでは、汚染物質を制限した結果、母乳中のダイオキシン量が年々減っていきました。
妊娠や出産をきっかけに、以前にもまして、環境問題への関心が高まったという方も多いですね。次の世代には、いまよりもっといい環境を残してあげたいですね。
Q3.赤ちゃんに湿疹ができたのは母乳のせい?
Q.「赤ちゃんに湿疹ができたのは、母乳が悪いから」と言われました。本当でしょうか? また、ママが食べた卵などの成分が母乳に出て、赤ちゃんがアレルギーになることはありますか?
A.お母さんが食べた物が母乳に影響して、赤ちゃんにアレルギーや湿疹が出るというのは、かなり少ないケースなんです。
もともと赤ちゃんに湿疹はつきもの。まずは、食べ物以外で工夫をしてみましょう。
赤ちゃんの肌には何も塗らないほうがいいと思われがちですが、赤ちゃんは皮膚が弱いので、お風呂上りにそのままにしているとカサカサになってしまいます。大人だってそうですよね。
お風呂からあがったら、赤ちゃん用ローションなどで肌を保護しましょう。赤ちゃんは汗っかきなので、寝るときの服の素材は汗を吸収しやすいものにすること。
また、汗をかいた服をそのままにしておかないこと。こうしたお手入れや注意をすることで、ある程度、かぶれは予防できます。
スキンケアに気を遣っても、湿疹がなかなか治らなかったり、ひどくなっていく場合は、母乳育児に理解のある小児科の先生に相談しましょう。
授乳中のママは、たくさんの栄養を必要としています。「私が食べたものが原因?」と自己判断で卵や乳製品を減らしてしまうと、栄養バランスが崩れてしまうことがあります。だから、食材の除去をする場合は医師や栄養士と相談の上、行うといいですね。
Q4.乳腺炎の原因と予防法は?
Q.乳腺炎に繰り返しかかってしまいます。乳腺炎は、何が原因ですか? 予防法があれば、おしえてください。
A.赤ちゃんのおっぱいの吸い付き方が浅かったり、ブラジャーがきつくて、一部の乳管をつぶしてしまうと、乳管が詰まって乳腺炎になる場合があります。疲れやストレスも体の抵抗力が落ちるので、乳腺炎の原因になります。
また、おっぱいがパンパンに張った状態で長時間そのままにしておくと乳腺炎になります。おっぱいが張ってきたら、赤ちゃんに吸わせるか、吸わせるタイミングがなければ、搾乳しましょう。
軽い乳腺炎の場合は、専門家の方にマッサージをしてもらわなくても、自分で対処できるんですよ。乳首から根元にかけて放射状に広がった部分に、かたいしこりをみつけたら、しこりの外側から指で乳首に向かって押し出すようにしながら、赤ちゃんに吸ってもらいます。
また、こんな方法も。赤ちゃんを仰向けに寝かせて、お母さんは四つん這いの姿勢になります。そして、赤ちゃんの下あごのほうに、おっぱいのしこりの部分がくるようにママの向きを調節して、吸ってもらいましょう。
赤ちゃんはあごの部分の吸う力がいちばん強いので、これでしこりになっている部分が通りやすくなります。
四足動物には、二足動物の人間のような乳腺炎はありません。重力の影響でおっぱい全体が自然に下に垂れるからです。乳腺炎になったら、この方法を試してみてください。
Q5.生後1ヵ月で混合、今から母乳だけにできる?
Q.出産した病院がミルク中心の病院でした。いま、生後1ヵ月で混合ですが、母乳だけで育てることはできますか。
A.まだまだこれからですから、大丈夫!
おっぱいは赤ちゃんに吸ってもらう刺激でつくられるので、とにかく吸ってもらいましょう。授乳のときは、まず、おっぱいを先に飲ませてください。そのあと、足りないようならミルクを飲ませましょう。
赤ちゃんが飲みやすい哺乳瓶に慣れてしまうと、ママのおっぱいを吸いたがらなくなってしまいますから、母乳育児のために作られた“飲みにくい哺乳瓶”(ピジョン「母乳実感」「母乳相談室」など)を使ってくださいね。
最初は大変かもしれませんが、根気よく頻回授乳を続けるうちに、赤ちゃんの吸う刺激で、おっぱいの出る量が増えてきます。ミルクを足さなくてよくなることが多いですよ。
あきらめず、でも、アセらず、母乳育児を楽しむ気持ちでやってみてくださいね。
Q6.妊娠中や授乳中に乳がんの検査を受けられる?
Q.乳がん健診を受けようと思っていた矢先に、妊娠しました。妊娠中や授乳中に乳がんの検査を受けられますか?
A.妊娠中や授乳中でも、乳がんの検査は受けられます。
日赤では、妊婦健診の項目として乳房検診を取り入れています。妊娠14週頃に乳房の視診・触診をして、しこりがあった場合は院内の乳腺外科に紹介、超音波検査を行います。
超音波検査は安全で痛みもありませんし、乳腺が発達している妊娠・授乳期には特に適しています。
必要に応じて、マンモグラフィー(レントゲン撮影)や穿刺吸引細胞診(せんしきゅういんさいぼうしん・針を刺して細胞を採取する)を行うこともあります。妊娠中にマンモグラフィーを行う場合は、お腹を鉛製のエプロンでカバーするので、安心してください。
日赤では、2000年から2008年までの8年間に、妊娠~授乳期の乳がん9例を経験しました。自分で触っているときにしこりを感じたり、医師や助産師による乳房検診をしたことが、がん診断のきっかけになりました。
これから高齢出産が増えるにつれて、妊娠・授乳期に発見される乳がんは増えていくのではないかと考えられています。妊娠前も妊娠中も、そして授乳中も、ふだんから自分のおっぱいをよく触って観察してチェックしましょう。
お母さんは、赤ちゃんのために長生きをしなければいけません。子宮頸がんや乳がんなどは早期にみつけられるがんなので、きちんとした知識を持ち、健診を受けるようにしてくださいね。
Q7.ATLのウイルス検査で陽性の場合、母乳はあげられない?
Q.妊婦健診でATLのウイルス検査をしたところ、陽性でした。母乳はあげられないのでしょうか?
A.ATLは「成人T細胞白血病」という病気です。主に乳児期に、母乳を通してHTLV-1というウィルスに感染し、感染した人の5~10%が、40~50歳の成人になってから白血病を発症するのです。
感染率は地域差があり、九州や沖縄などの地域に多い傾向があるのですが、最近は、関東や中部地方でも感染率が増加傾向にあります。
このウイルスは母乳によって母子感染するため、お母さんが陽性の場合は粉ミルクの使用が勧められてきました。
長期母乳育児による感染は、15~40%とされています。しかし完全なミルク育児であっても、母子感染は3~6%あるとされています。これは、胎内での感染や産道での感染があるためです。
授乳の方法としては、1)人工栄養、2)凍結母乳、3)短期間(3ヵ月以内)の母乳栄養の、3つが推奨されています。
搾乳した母乳を冷凍してマイナス20℃で12時間保存すると感染したリンパ球が不活性化し、母子感染を予防します。また、母乳育児を行う場合は、その量が少ないほど、また期間が短いほど母子感染は低下するとされています。
日赤では、時間をかけてこのような説明を行い、ご夫婦が納得して授乳方法が決められるように支援しています。
おっぱいをあげるどうか、また、あげるときの方法について、主治医とよく相談してみてくださいね。
(2010年8月から掲載、2014年4月改訂)