お産を甘く見てはいけない

僕自身は産科医として、みなさんに安心してお産をしていただくことを目的にやっているのですが、大切な情報があまりにもみなさんに伝わっていないのではないか…と、とても心配しています。

今日はそのことをお話したいと思います。

僕が妊婦のみなさんに何を一番知ってほしいかというと、「お産は100%安全なものではない」ということです。妊婦さんでそのことをわかっている人も多いとは思うのですが、表面に出てくるお産の情報はハッピーなものばかり。厳しいことを言う産科の先生もだんだんいなくなっているんですね。

かつては、妊娠するとお母さんやおばあさんたちが知人のお産の経験から、「お産を甘く見たらダメだよ。お産をするということは、棺おけに片足を突っ込んでいるように危険なものなんだから、心してやらないといけないんだよ」と言っていたんですね。

実際そのとおりで、明治時代…いまから100年ほど前の1900年には、だいたい10万人のうちの400人ぐらいがお産で亡くなっていました。

いまの日本は10万人のうちの7人ですから、当時を思えば、本当にお産は安全になったと言えます。

でも、この10万人に対して400人という数字が、まったく昔の話かというと、実はそうじゃないんです。2000年の統計では、先進国(もちろん日本も含めた)を含めた世界の平均が400人なんです。10万人のうちの400人、つまり250人に1人がいまもお産で亡くなっている。それが現実なんですね。

(2006年9月から掲載)