近くに医療施設があるメリット

欧米の一般の医療レベルは、日本と同じか、それ以上なのですが、日本ほど妊産婦死亡率は低くありません。

それはなぜかというと、欧米には小さな診療所がなく、大きな病院しかないからです。

これはどういうことかというと、家の近くの施設でお産できないということ。たとえばアメリカだと、1つの州に分娩する病院が1つもない、なんてところがあるんです。

だから隣りの州に行ってお産をすることになる。ヘリコプターで行ったり、車で3~4時間かけて行ったりするのが当たり前なんですね。だから、何かあった時に病院にたどり着けないで亡くなる人がいる。

日本は、すぐ近くにお産をする診療所がある。早くから異常がわかっている人は、地域の大きな病院に送ってリスクを回避するし、急にお母さんの具合が悪くなって帝王切開になっても、診療所でできるわけです。

いざとなれば診療所の先生が、お母さんの手術をして、取り上げた赤ちゃんの具合が悪いときは蘇生もして、と診療所や一人医長の先生は、一人でずっと頑張ってやってきたんですね。

確かに、ある程度以上の重症患者となれば救命できないけど、多くは対処ができたのです。

妊産婦死亡率が400人から7人と、日本が世界一の安産国になったのは、そうした診療所の先生たちと異常を受け入れてきた中核病院の先生方のがんばりがあったからなんです。

でも、それもここ最近、うまくいかなくなってきました。その原因の一つは、そのような近くの診療所・病院に対して、設備の整った多数の産科医がいる施設と同様の医療を一般の人々が要求して、トラブルとなれば訴訟するからなんです。

(2006年9月から掲載)