12週までの流産には治療法がない

少量の出血と腹痛があらわれると、「切迫流産」という診断名がつけられることがあります。でもこれは必ずしも「流産が差し迫っている」という意味ではないのです。

妊娠8週頃までは、全妊婦の約30%が、少量の不正出血を経験します。“少量の出血”とは、具体的に言うと「ふだんの月経と比較して、出血が少ない、痛みが軽い」ということが目安です。

少量の出血の多くは、受精卵が子宮内膜に着床するときの出血(着床時出血)や、胎盤のもととなる絨毛が内膜に組織を伸ばすときに起こる出血(絨毛膜下血腫)です。これらは妊娠初期によくみられるもの。ほぼ妊娠は継続します。

しかし、そうではなく出血が流産につながるものだったとしても、それは受精卵の段階で運命づけられたもの。前回もお話したように、不育症など特殊な背景がある場合を除き、早期流産を食い止める治療法はありません。止血剤や子宮収縮抑制剤(張り止め)、ホルモン剤なども、早期流産に有効だという研究結果はないのです。

ですから、妊娠12週までに“少量の出血”があっても、緊急で受診をする必要はありません。次の健診まで待ってもいいですし、不安ならば翌日の診療時間内に受診しましょう。

しかし、少量ではなく「月経ほどの腹痛や出血がある」、「つわりがあったのに急になくなった」というときは、流産の兆候を疑って、かかりつけの産婦人科を受診してください。でもこの場合も残念ながら、有効な治療法はありません。流産したことを確認するための受診になります。胎児に心拍があったとしても、治療の手立てはなく、経過を見守ることになります。

何も治療することができないということは、妊婦さんにとって非常に厳しく、酷な話だと思います。でもこれが事実なんです。だからこそ、「12週までは、確実に妊娠したかどうかの結果待ちの期間」と知っていただきたいのです。

(2011年12月から掲載)