安易な「張り止め」「止血剤」処方には弊害が…

くり返しになりますが、妊娠12週までの流産をくい止める治療法はありません。しかし、医師や医療機関によっては、子宮収縮抑制剤(張り止め)や止血剤、ホルモン剤などを処方しています。

少しでも妊婦さんを安心させたいという思いがあるのかもしれませんが、かえって妊婦さんは「治療できるのだ」と期待を抱きます。結果として流産したときに深い衝撃を受けてしまいます。

また、妊娠初期の「少量の出血(月経よりも少ない出血)」は流産した人にも、しなかった人にも、どちらも30%の割合で起こります。出血があったからといって流産するとは限らないのです。しかし、「治療」は一律に行われている――ということは、流産につながる出血ではない人にも、治療が行われているということです。本来なら、治療などしなくても育つ運命の胎児に、無用な薬が使用されるということです。

薬というのは、薬の副作用を上回るメリットがあると判断したときに使用されるべきもの。メリットがなければ、副反応のデメリットだけが残ってしまいます。実は、妊娠初期にこういった薬を処方しているのは、世界でも日本ぐらいなのです。

私は、「早期流産(12週未満)には治療法がない」ということが知らされていないのが問題だと思っています。医療者側は、そのことをしっかりと伝えていく必要があります。

受診すれば治療できると信じて、病院の診療時間外に受診する方があとをたちません。それに対応するための人員手配で病院側のコストが増え、結果として、みなさんが支払う医療費の増加につながります。また、「出血しているのに治療をしてくれないなんて、ひどい病院だ」という誤解を生む背景にもなっています。

(2011年12月から掲載)