大事なのは形式ではなくプロセス

私たちの病院では、「亡くなった赤ちゃんに会う」「抱っこをする」「手形をとる」…といった取り組みをしていますが、決して、こういった“形式”が大事なのではありません。

「こうしたら赤ちゃんの死を受け入れられる」「患者さんの心をケアできる」といった、マニュアルはありません。

人によって状況も、感じ方もそれぞれ違います。生と死の数だけストーリーがあるのだと思います。

私自身が行ったケアがすべて良いものではないですし、もしかしたら、逆に傷つけてしまったこともあるかもしれません。

亡くなった赤ちゃんを抱っこして過ごしてもらう経験も、人によってはトラウマになり、次回の妊娠時に抑うつ症状を起こしたり、不安が強く、PTSD(心的外傷後ストレス障害)になる頻度が上がるというデータもあります。

「こういうことが良かった」「こういうことが悪かった」という評価や判断は、かなり時間が経ってから語られることではないかと思います。

大切なのは、お母さんの悲しみに立ち会い、家族や医療従事者がみんなで共有し、赤ちゃんの死を一緒に受け入れていく、そのプロセスが大切なのです。その前提がなければ、トラウマにもなり、次の妊娠に影響することもあるでしょう。

一番大切なことは、僕たち医療者が何をしたかではなく、どのような思いでお母さんや家族に接していたのかにあるのではないかと考えます。

仏教には、49日、1周忌、3回忌、7回忌、13回忌…といった法要が続いてゆきます。

長い歳月をかけて、その節目節目で亡くなった人の思い出を語り、弔いながら、自分自身の心も少しずつ癒されていくものなのです。亡くなった人に対する思いが癒されるには、長い時間を必要とするものです。

それは赤ちゃんであっても同じことです。すぐに立ち直ろう、早くこの悲しみから抜け出さなくては、と思う必要はありません。

ありのまま、そのままの気持ちを家族や医療者と分かち合いながら、自分を見つめていくことを大切にしてください。

(2009年10月から掲載)