知っておきたい5つの問題点

出生前診断は、妊婦全員が受けるべきものではなく、受ける受けないは本人の判断にまかされています。「医師に言われたから」「とりあえず…」という気軽な気持ちで受けてしまうと、思わぬところで深く悩んでしまうこともあります。出生前診断には、次のような問題があることをぜひ知って、検査を受ける・受けないの判断をしてほしいと思います。

1.結果が出るまでの精神的な負担が大きい

「母体血マーカーテスト」や「羊水検査」は結果が出るまでに、10日~2週間ほどかかります。この間の精神的ストレスはかなりのものです。本来なら、新しい命を授かった喜びを感じたり、リラックスして過ごしたい時期に、「悪い想像ばかりしてしまって、夜も眠れなくなった」「結果が出るまで生きた心地がしなかった」など、強い不安や恐れを抱く人もいます。

2.検査でわかる先天異常は、ごく一部

出生前診断によってわかるのは、たくさんある先天異常の中の一部に過ぎません。たとえば、母体血マーカーテストの対象となるのは、染色体の数の異常(ダウン症、18トリソミー、13トリソミー)と二分脊椎症だけです。精密超音波検査の場合は、これらの他に、心臓や内臓、脳神経、骨格などの一部も検査できます。

しかし、その他の遺伝子の異常や、小さな外表奇形、内分泌異常、代謝異常、脳性麻痺、視覚や聴覚などは、調べることができません。出生前検査で異常が見つからなかったからといって、赤ちゃんが正常であることは保証できません。また、障がいの多くは先天的なものではなく、後天的なものです。生きている限り、誰でも障がいを負うリスクがあります。

3.母体血マーカーテストの精度は低い

血液検査で染色体異常の確率を調べる「トリプルマーカーテスト」や「クワトロテスト」は、母体や胎児へのリスクもなく、費用も2~3万と、比較的受けやすい検査です。でも、あくまでもリスクが高いと思われる人を大まかにふるいにかけるための「スクリーニング検査」なので、検査の精度は高くありません。

ダウン症を例にあげます。35歳の人がダウン症児を妊娠する確率は約1/300、また、羊水検査によって流産するリスクも約1/300です。母体血マーカーテストでは、ダウン症の確率が、羊水検査による流産率より高ければ(1/295以上)、「スクリーニング陽性」と判定されます。陽性となった人は、流産リスクを考慮しながら、確定診断のための羊水検査を受けるかどうかを決めます。

陽性という結果が出た人のうち、実際にダウン症児である確率は2%。つまり、リスクが高いと言われた100人のうち98人はダウン症ではありません。また、ダウン症児を妊娠している人のうち87%はこの検査で陽性となりますが、残りの13%は陰性と出ます。「陰性でリスクが低い」と思っていたのに、生まれたら染色体異常があった、というケースは多いのです。

母体血マーカーテストよりも、超音波専門医・専門技師による超音波検査で、NT(nuchaltranslucency,後頸部透瞭像)の厚みや鼻骨、血流などを総合的に調べたほうが、ダウン症や胎児の異常の検出率は高いのです。

4.検査結果が誤っている可能性がある

羊水検査や絨毛検査は、胎児の染色体異常の診断として行われます。しかしこの検査もまた、100%正確なものではありません。0.1~0.6%という確率で、診断を誤る可能性があります。1000人に1~6人は、誤判定があるということです。実際に、羊水検査ではダウン症・陰性だったのに、生まれてきたらダウン症児だったケースが報告されていますし、その逆もあります。

5.医療体制がじゅうぶん整っていない

出生前診断は、ときに胎児の命や家族の運命までをも左右する非常にセンシティブな検査です。事前に検査の意味や限界などを医療者がしっかり話すことが必要ですし、結果が出たあとには、その病気の今後の見通し、生まれてからのサポート体制、同じ病気を抱える人たちの現状、心のケアなどが求められます。これを「遺伝カウンセリング」とよび、遺伝専門医や遺伝カウンセラーが行うことになっているのですが、人材が圧倒的に不足しています。多くの施設では、じゅうぶんなカウンセリングを施さずに、または出来ずに、出生前診断が行われています。

(2012年11月から掲載)