うつは古傷の再発?
人間、頭の中、心の中には、過去のたくさんの経験が入っています。その過去の経験が出産という大きなストレスをきっかけに、蘇ってくることがあるのです。
「マトリョーシカ」というお人形があるでしょう? 同じ形の少しずつ大きさの違うお人形がいくつも重なって入っているロシアの民芸品です。このお人形のように、自分の中にも、1歳のころの自分…3歳のころの自分…5歳…10歳…の自分が重なって入っていると考えてみてください。その幼いころの自分が、出産で疲れた体と心の上に突然出てくる。大人の自分の上にポーンと蘇ってくるのです。
たとえば、子どものころ、親から、「おまえはダメな子だ」「バカだ」などと否定的なことを言われて育った人は、自分が親になると、同じように接してしまうことがあります。子どものころの自分が出てきて、自分がされたことと同じことを自分の娘にしてしまうのです。頭ではそう考えないようにしても、体や心が反応してしまうのです。
「私は子どものころ、そうはしてもらわなかった」「私は子どものころ、叩いてしつけられた」「私は子どものころ……」。
人は生きていく中で、誰でも心の傷を負います。「傷なんてない」「持ってない」などという人は少ないでしょう。その傷は、何かによって癒されて治っている場合もあれば、ただ見ないようにして過ごしている場合もあります。どちらにしても大人になるにつれ、しだいに忘れてしまうものです。
ところが、記憶の奥底に傷跡はそのまま存在していて、癒された傷の場合は何かの拍子に思い出しても「そういえば、そんなことがあったわ」といった程度ですみます。しかし、見ないようにして癒されなかった傷は何かの拍子に再び痛み出すのです。
それが、「産後うつ」という病気のきっかけになっていることも多いのです。出産という強いストレスをきっかけに、過去の心の傷が再び口を開いて痛み出し、さまざまな症状となて現れてくるのです。
(2011年11月から掲載)