男性不妊クリニック開設のワケ

赤ちゃんをなかなか授かることができないとき、まずは女性が産婦人科や不妊専門病院を訪れて、原因を調べてみる――というカップルがほとんどです。

でも、原因が女性側だけにあるケースというのは、全体の三分の一です。男女両方に原因があるのが三分の一、そして男性のみにある場合が三分の一。

つまり、不妊の原因は、男女でフィフティー・フィフティー。とりあえず女性から検査…ではなく、本当は男女同時に受ける必要があるんです。いや、泌尿器医の立場から言えば、男性が先に検査を受けたほうがいいくらいなのです。

女性の検査は、内診や超音波検査、血液検査、卵管造影検査、フーナーテストなど多岐にわたります。タイミング法や人工授精などの不妊治療とほぼ同時進行で進めていくのが一般的なので、「検査を受ける=治療の世界に入っていく」ことになります。

一方、男性の最初の検査は、自然に排出した精液を顕微鏡で調べるだけなので、痛みなどの負担はありません。もし、精液の状態が悪かった場合は、より詳しい検査に進みます。逆に、精液に問題がなければ、もう受診する必要はありません。

精液は、男性の健康状態を示すバロメーター。もし、検査結果が悪かったとしても、日常生活を見直すだけで状態がよくなることもありますし、治療の選択肢もあります。背後に糖尿病や高血圧など重大な病気が隠れている場合もありますし、診察で初期の精巣がんが見つかることも、何度も経験しました。

また、女性が人工授精や体外受精などの治療を受けている場合、精液の状態がよくなれば、妊娠率を高めることができるのです。

このように男性が不妊検査を受けるメリットはたくさんあります。でも、男性の検査・治療をできるのは大学病院ばかり。一部の産婦人科では精液検査を受けられますが、男性にとって敷居が高い。

もっと気軽に、「健康チェック」「ブライダルチェック」の感覚で、検査を受けられる施設があったらいいのに…そう思って、私は2003年、国内で初めて男性不妊を専門としたクリニックを開院したのです。

(2011年5月から掲載)