お産を支える医師の過重労働

病院の医師の平均労働時間は、産婦人科の医者が一番多くて、週に69時間と言われています。でもこれは、産科も婦人科も不妊の医師も含めた平均なので、実際は産科の医者だけが突出して多いんです。

産科の医者は、朝8時から当直して次の日の5時までやるから、最低33時間連続労働です。

こんな勤務を週に2回やるだけで、労働基準法で定められた60時間を超えますから、実際には120~130時間はふつうのこと。その激務を、医師たちは日本の産科医療をなんとかしなければ、と自分たちのモチベーションだけで頑張っているんですね。

そんな限界の状態で、一人で母と子の二つの命を守ることは一定の確率で不可能なため、母と子の予後不良となることが必ず起こります。しかし、昔は仕方がないと済まされたことが、今では裁判となり、刑事責任まで負わされるようになったのです。

ひとりで開業している診療所の先生も、学会に行けない、子どもの入学式にさえ行けない。お産は時を選びませんから、夜中にいつ起こされるかわからない。 そんな日が365日続くわけで、考えてみれば不可能なことをやってきたんです。

そんながんばりがあって、妊産婦死亡率は世界のトップになりました。すると今度みんなは、お産なんて安全にできると思い込んでしまった……。

安全なんて当たり前の話で、「アメニティがいいところがいい」「食事のいいところでお産したい」と言って、元気な赤ちゃんを抱くのが当たり前だと思っている。 日本では水と安全がただで手に入ると思い込んでいるんです。

でも、医療現場でやっていることは、水鳥が水面下でガーッと必死でかいているのと同じ。本当に倒れる寸前ぐらいでやっている産科医師がほとんどなんです。

(2006年9月から掲載)