新型出生前診断は99.1%の精度ではない!

2012年夏、「血液検査で、ダウン症の99.1%を検出できる」という新型出生前診断(正式名称:NIPT)がマスコミで報道され、注目を集めました。しかし、報道のしかたに問題があり、この表現は非常に誤解を招くものです。この数字を見ると「検査の精度は100%に近い」と思ってしまうでしょう?でも実はちがいます。

たとえば、ダウン症の発症率が0.4%という30代後半妊婦が10万人いたとします。この場合、10万人×0.4%で、400人がダウン症児を妊娠していて、残りの99,600人は非ダウン症児です。

検査会社の説明では、新型出生前診断は「感度99.1%」としているのですが、これは、「ダウン症児を妊娠している400人を検査したら、陽性となるのが99.1%」という意味です。つまり、400人×99.1%の396人が陽性、残りの4人はダウン症児なのに陰性と出ます。

また、検査会社は「特異度99.9%」という数字も出しています。これは、「非ダウン症児を妊娠している99,600人(10万人-400人)を検査したら、99.9%の99,500人は陰性と出る」という意味です。つまり、99,500人は正しく出る。けれど、残りの100人はダウン症ではないのに陽性と出ます。

ここで、ダウン症のリスクが高い「陽性」と出た人に注目してみましょう。ダウン症を妊娠している396人と、非ダウン症児を妊娠している100人の合計496人です。このうち本当にダウン症なのは396人ですから、的中率は396÷496=79.8%、約8割なのです。残りの20.2%はダウン症ではありません。

この的中率は、母集団のダウン症発症率によって変わってきます。ダウン症発症率が高い高齢妊婦が集団で受けると陽性の的中率は高くなりますが、ダウン症発症率が少ない低年齢妊婦だと、陽性の的中率は低くなってしまうのです。この検査は、母体血中の胎児由来DNAの量を調べて、21番目の染色体の数の異常の存在の可能性を調べるもので、いまだ確定的な検査とはいえないのです。検査会社から報告されている精度も、ダウン症のリスクが高いハイリスク群でのデータであることを理解しておく必要があります。

新型出生前診断は、従来の血液検査「トリプルマーカーテスト」や「クワトロテスト」(母体血マーカーテスト)よりも、格段に精度が高いのは事実です。しかし、それでもなお検査の誤判定がかなり高い割合で発生します。だから、確定診断としての羊水検査・絨毛膜検査が絶対に必要なんです。

厚生科学審議会の委員会見解(平成11年)で、「出生前マススクリーニング(妊婦全員の検査)は行わない」という方向性が示されたこの国で、諸外国ではマススクリーニングの手法としても考えられている新型出生前診断が、ダウン症のみの選別の方法として安易に認識され広まってしまうことが大きな問題なのです。単に診断だけの問題ではなく、広く社会的な議論として行くべきことなのです。

マスコミではこの事実はほとんど取り上げられませんし、医師でさえ、よく理解していない人が多い。出生前診断の正確な知識が広がらなければ、社会に大きな混乱をもたらします。今回の特集で正確な情報を得て、検査の意味をひとりひとりが考えてほしいと思います。

(2012年11月から掲載)