私は大丈夫!と思わないで
お産は病気ではないため、ある意味病気よりも怖いとも言えます。なぜなら、病気には法則があるので医者としても筋道を立てて対応しやすく、何より向き合う対象=病気が目の前にあります。
ところがお産は、1個の受精卵から人間になるまでの自然現象。他の病気と違って医者は、目の前の状態から、出産と産後の状態を予想、判断しなくてはなりません。そういう意味では、被害が予想しづらい台風に似ています。遠い海で発生した段階から観測を続け、台風の特徴や動きを把握しつつ災難に備えようとするのは、妊婦健診でやっていることと同じです。想定外とならない対応を考えておくためにも、妊婦健診は大切なのです。
妊婦さんはみんな、自分にトラブルが起こるはずがないと思っていますが、起きてからでは遅いのです。表向きは無事出産できているように見えても、その陰でトラブルが多いのも事実です。妊娠が安全なものだと思っていたら、それは大きな間違い。感染症にかかってしまうこともあれば、自己判断で行なった運動で早産になってしまう人もいます。いつ何が起こるか分からないのが妊娠・出産なのです。
検査を体調管理に役立てる
医師から、ときには厳しい言葉で注意されることもあるでしょう。また、いい思いをしないことを言われるかも知れません。でもそれを悪意ととらえず、赤ちゃんのために子宮内環境をよりよくするためのアドバイスとして受け止めてください。
人当たりがよく、いつもニコニコして、いいことばかりを言う医者が、いい医者ではありません。患者さんのために、おなかの赤ちゃんのために何が必要かを見極め、ときに厳しく言うのが、いい医者です。自分の聞きたいことだけを聞きに行く、嫌なことは言われたくない、嬉しい楽しいハッピーな気持ちに終始する妊婦健診には、意味がありません。また、「検査結果を電話で教えてほしい」という要望もありますが、個人情報保護の観点からも、それはできません。
謙虚に医師と向き合い、よく話を聞きながら、自分の体を理解し、体調管理を見直すきっかけとして妊婦健診を利用しましょう。そうすることで、主治医との信頼関係を築いていってほしいと思います。
(2012年9月から掲載)